いまの季節、部屋の中で秋らしい気分を味わうには、ススキを飾るのが手っ取り早い。そう人に言われて試してみた。原っぱから何本か、ハサミで切ってきて花瓶に投げ込むと、なるほど演出効果はてきめんだ。窓の向こうの夜空さえ心なしか澄みわたる
▼秋の七草を、指を折りつつ挙げてみると、萩(はぎ)、尾花、葛(くず)、撫子(なでしこ)、女郎花(おみなえし)、藤袴(ふじばかま)、それに朝顔となる。朝顔はいまの桔梗(ききょう)か木槿(むくげ)だという。ススキを尾花と呼ぶのは、花穂が動物の尻尾(しっぽ)に似ているためらしい
▼ススキの群れは、風になびいて「おいで、おいで」をする。その様を、江戸時代の俳人去来は「さよなら」に見立てた。〈君が手もまじるなるべし花芒(はなすすき)〉。見送ってくれる人の振る手が、銀の穂波と一緒にいつまでも揺れている。一読、秋風の立つような余韻を残す
▼〈夕焼、小焼、薄(すすき)のさきに火がついた〉。これで全文の「薄」という童謡をつくったのは、北原白秋だった。秋の入り日はあかあかと落ちていく。説明抜きの郷愁を、ススキは呼びさますようである
▼さて、わが部屋のススキは、花穂が開いて、はや秋たけなわの風情になった。窓の外に丸い月がほしいところだが、まだ半分ばかり欠けている。この月が満ちていって、中秋の名月になる
▼花屋で竜胆(りんどう)や吾亦紅(われもこう)を買ってススキの脇に挿してみた。千草の乱れ咲く広がりはないが、ささやかながら秋の季語の「花野」が出現した。〈かたはらに秋ぐさの花かたるらくほろびしものはなつかしきかな〉牧水。名歌の調べにも誘われて、秋が胸の底へ染みていく。